「篠笛をはじめるにあたって、五線譜が読めないのですが大丈夫でしょうか?」

このような質問をよく受けます。

「大丈夫です。私、森田もまったく読めません」

指の押さえ方を数字で表記する「数字譜」を使えば、誰でも簡単に音を表現することができます。また、一曲の中で使う指使い(運指)は3〜5つ程度なので、耳で覚えることも難しくありません。

多くの皆さんはカラオケで歌った経験があるかと思います。友達とよく歌いに行くという方もいるでしょう。お父さん方だと二次会のスナックでしょうか?

今は滅多に歌いませんが、私も若い頃は、師匠に連れられて「越冬つばめ」や「天城越え」を歌わされました^_^。

2、3歳の子供は見よう見まねで歌を歌います。

もうすぐ四歳になる娘の桜は、能の謡と仕舞を習っています。今は「老松」を練習中で、<齢をさずくる〜こ〜の〜君〜の〜>に始まる長い歌をそらんじています。私が作曲した「篠楽(ささら)」の口唱歌<トーチヒャリローヒャリツヒャールヒャリヒャリトート」も勝手に真似をして歌いますし、伊勢大神楽を何度も見に行く中で「伊勢音頭」の<ヤートーコーセーエ>の囃子詞も思い出したように歌い出します。
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伊勢音頭(道中歌)を歌っていたら…いそいそと桜がよじ登って参りました^_^ 。伊勢大神楽では終局の演目・魁曲(らんぎょく)で伊勢音頭を唱和します。台師の気持ちが少しわかったようなわからんような…思わず右手を上げてしまいマシタ^_^ 。

↓下の写真が伊勢大神楽のオリジナル(いつもお世話になっている山本勘太夫組)。
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三歳にして、なかなか渋い嗜好ですが、そうかと思えば、日本中でヒットした?星野源さんの「恋ダンス」を歌って踊ったり、保育園で定番の「とんぼのめがね」を披露してくれたりもします。

大人でも子供でも「歌いたい曲」があれば、積極的にそれを「真似」することによって歌えるようになります。そして、そこでは五線譜は意識されません。

明治以来の音楽教育の影響で、「音楽」=「ドレミ・五線譜」と連想してしまいがちですが、このように「五線譜なしの音楽」を我々は普通に実践しています。それは人間に自然と備わっている能力です。


「耳コピ」・・・これが、最も再現性が高く簡単な方法です。

「楽器を始める」となると、少し構えてしまって、何か特別な能力が必用なのでは?というところから「五線譜」が必須と考えてしまうのかもしれません。しかしながら、そもそも日本の楽器を演奏する時に、西洋の五線譜・ドレミを媒介する必要があるのか?という美意識の問題があります。そして、和楽器の習得に際して五線譜を用いることは、日本語を話すときにローマ字で書かれた原稿を読むようなものですから、当然それによる弊害、副作用も生じます。


篠笛を習得する上での五線譜によるマイナス面をざっと列挙すると以下の通りです。

(ア)五線譜は横書きなので呼吸が乱れる

(イ)実際の篠笛の音だけでなく「ドレミ」の声が頭の中で同時に聞こえる
   →篠笛の純粋な音を楽しめない

まず(ア)についてですが、目線の動きは呼吸や意識の方向と連動していますので、譜面を用いる場合には、それが縦書きであることが、想像以上に大切です。古くから日本音楽の譜面は文字と同じく縦書きが一般的です。西洋音楽伝来以前の音楽を楽しむ訳ですから、ここは素直に縦書きの譜面を用いましょう。

次に(イ)について記してみます。

この、実際の音が「ドレミ」に聞こえる症状はやっかいで、小さい頃にピアノをたしなんだことが原因で、日本の曲であれ何であれ、曲が流れると「ドレミ」に変換してまって、曲本来の魅力を味わえないという実体験を何人もから聞きました。

これは本当に恐ろしい副作用だと思います(それゆえ、私は義務教育における音楽教育の在り方の再考が必用だと考えます)。
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明治14年文部省発行『小学唱歌集』(篠笛文化研究社 所蔵)。ドレミ教育の事始めデス。ちなみに、当時はドレミとは呼ばず「1234567」の算用数字をあてて「ヒフミヨイムナ」と大和読みで訓じていました。

このように、歌や音は真似をすることが容易であること、そして、篠笛の習得において五線譜にはマイナス面が多いことから、五線譜を用いることはお勧めしておりません。

とはいえ、運指に名前が付いていないと「他者との意思疎通」や「音の確認」ができません。
そこで玲月流では、明治以来の篠笛の教本で一般に用いられている「数字譜」を使用します。

その方法は単純で、指孔の押さえ方に対応した番号を振ります。何の「音楽教育」を受けていない小学校1年生でも理解できる簡単な方法で、例えば以下のようになります。


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森田玲『日本の音 篠笛事始め』篠笛文化研究社より

「桜」の「さくら〜さくら〜」は「223〜223〜」と表記します。

お稽古では、運指(指使い)を伝える時に、このように数字で呼ぶと便利です。

日本の曲は、一曲の中で使う運指は3つ〜5つ程度ですので、慣れてしまえば指が迷うことはほとんどありません。また、同じ曲を何度も吹き込むことで、それぞれの音に指の形や息遣いが連動し、自然と身体が反応するようになります。そうなると、より音に集中することができるようになって、音色の工夫が楽しくなってきます。

先ほど、ドレミで覚えると、頭の中でドレミの声が流れて実際の音と二重に被るという話をいたしましたが、数字譜に頼りすぎると、同じように数字の声が頭の中で流れてしまいますので注意が必要です。

私も祭囃子や自作の曲などは、純粋な実音のみが聞こえますが、「桜」は、一番はじめに「数字」で覚えてしまったので、未だに「にぃにぃさーん」のように頭の中で声が聞こえてしまいます。


五線譜に慣れてしまっているという方もいらっしゃると思いますが、五線譜はあくまでも「共通語」的なものです。訛の強い(魅力的な)民族音楽を楽しむためには、その地域の「母国語」「方言」を採用するのが一番!

「簡単」と言いながら、少し小難しい話になってしまいましたm(_ _)m

篠笛の音曲の習得には「耳コピ」が一番のオススメです!

<追記1>
曲の旋律だけではなく、息遣いや曲調などを包括的に歌で表した「口唱歌(くちしょうが)」が、古くから日本の音曲の伝達方法として活用されています。玲月流でも幾つかの音曲で用いています。口唱歌については項を改めて解説いたします。

<追記2>
五線譜は、非常に洗練された表記法で、それによって成立するすばらしい音楽も沢山あります。また、様々な民族の音楽を比較する上で、あるいは、録音・録画による記録の補助としても五線譜は有効です。私も「伊勢大神楽」の論文を書く際に、紙上において篠笛の旋律を再現しなければならない場面に直面し、その時は五線譜を用いました。私は五線譜を記すことができなかったので、以下の手順で五線譜を作成しました。

1私が笛を吹く
2妻・香織が五線譜を作成しPCソフトに打ち込む
3私がPCで再生した音源を聞いて間違いがないことを確認
4五線譜のデータを作成

<参考>
森田玲「伊勢大神楽の神楽囃子研究」『民俗音楽研究』第36号(日本民俗音楽学会)
→ http://shinobue.blog.jp/ise-daikagura-morita-akira.pdf