今回は「篠笛が篠笛であるために不可欠」な「指打ち」についてお話したいと思います。

リコーダーのタンギング
「フエ」と聴くと、皆さんはどのような楽器を連想しますか?ここは篠笛のブログですので「篠笛」と答えてくださるとは思いますが、一般的には小学校の縦笛・リコーダーを連想される方が多いように感じます。

皆さん当時、タンギングを練習した記憶はあるかと思います。タンはtongue(舌)、タンギングはトゥトゥと舌を使って息を切る奏法です。フルートもタンギングを用いるようですので、フルート経験者の方はタンギングに慣れています。

日本の小学校レベルのリコーダーでは、タンギングによって同じ音の連続音を表現し、その他の音もはっきりと表現することができます。


篠笛の指打ち
篠笛も、タンギングで音を区切ることは「物理的には可能」ですが、「篠笛らしらに欠ける表現」となってしまいます。

それでは、篠笛ではどのように音を区切るのでしょうか?

篠笛では伝統的に「指打ち」という奏法を用いて音を区切ります。この奏法が篠笛の音を篠笛たらしめているといっても過言ではありません。

「指打ち」とは、読んで字のごとく、指で孔を打って音を区切る奏法です。息を出し続けている状態で「指打ち」をすることによって、音を区切ることができます。

ボタンを押さえるような緩慢な動作ではなく、指を高く上げ、指と孔との距離を十分に取って、指の付け根から歯切れ良く指を打ち込みます。太鼓をバチで打つ要領です。
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指が孔に触れた瞬間に篠笛の管内の圧力が変わるため、鼓膜に響くピロピロ(ピャンピャン)とした「破裂音」が生じます。この音を、ここでは仮に「竹鳴(たけなり)」と名付けておきます。

このインパクトのある現象を初めて体験する人は(吹き手も聞き手も)、皆さん一応に驚かれます。

時系列的には、

「A音」<竹鳴>「A音」

となって、「A音」が二つに分かれます。
<竹鳴>は一瞬で「音程」として認識されない複雑な音です。

ここで質問です。

五つの連続音を表現するには何回指を打ては良いでしょうか?

慣れないうちは、思わず五回指を打ってしまう方が多いですが・・・

正解は、四回です。

一音目は、無音、あるいは、他の音程からの変化ですので、指を打つ必用はありません。慣れていない段階では、この「ゼロ回目」に指を打って音が乱れる人が多いので注意が必用です。

ロールケーキを五人で分ける時に包丁を何回入れるのか・・と同じ要領です(笑)


このように「指打ち」は、同じ音が連続する時に使われますが、この鼓膜に触る「竹鳴」は、すべての音の移り変わりの「狭間」でも大切となります。運指(指使い)が変わるときに、つまり孔を押さえる瞬間、孔から指を離す瞬間、歯切れ良くそれを行なうことによって、音と音の間に「指打ち音」が挟み込まれ、ピロピロと篠笛らしい華やかな音が散りばめられます。


「A音」<竹鳴>「B音」

「指打ち音」が「篠笛らしさ」に直結しますので、私は演奏中、常にこの「指打ち音」に意識を集中しています。「指打ち」音がない、あるいは弱いと「棒読みの笛」に聞こえてしまいます。

篠笛は、息を伸ばしたまま巧みに指を動かすことで旋律を紡ぎます。ただし、ずっと一定の息を出し続けるのかというとそうではなく、効果的な「竹鳴」が響くように、息の速度や喉の形、舌の位置など、息遣いの工夫が必要です。

初心者の段階では、あまり難しく考えず、保育園児が大きな声で歌うように、元気良く吹いておきましょう!


指打ちの練習
はっきりとした「竹鳴」を出すには、まず笛を唇に当てずに笛を持って指を打つ「空打ち(からうち)」の練習が効果的です。高い指の位置から的確に孔を捉えることができれば、「ポンポン」と竹管の空音が鳴ります。はじめは指が動きにくいかもしれませんが、それは日頃使っていない筋肉や神経を必用とするからです。利き手の逆の手でお箸を持っている状態です。そのうち慣れてきますので頑張りましょう!


篠笛は楽器だけでは篠笛足り得ません。奏者による篠笛らしい奏法をともなって初めて篠笛となる「半作音楽器」です。


「指打ち」を大切に!

追記(1)
無理なく指打ちが可能な自然な位置から大きく外れて指孔を配置するドレミの笛などは、篠笛の命とも言える「指打ち」が困難となります。

先日、七本調子の笛だと指が届かないので八本とか九本の笛でお稽古を始めて良いですか?という質問がございました。大人の方が七本調子で指が届かないということはあり得ないので、一度その笛をお持ちくださいとお伝えし拝見したところ、ドレミの笛でした。右手の指孔の配列に無理があり、不自然な指の開き方をしないと孔を押さえることができない笛でした。


追記(2)
外国の楽器については知識が少ないので確かなことは言えませんが、機械式の近代フルート以前の古典的なフルート、あるいは日本の学校教育のものではないオリジナルのリコーダー、その他、世界各地の楽器の中には、篠笛の「指打ち」と同じような奏法はあると予想されます。