今回は「譜面」の活用方法についてのお話です。

篠笛の譜面は明治以降、指孔の押さえ方を数字で示した「数字譜」が一般的で、拙著『日本の音 篠笛事始め』でも、音曲はすべて数字譜で表しています。

(篠笛の習得には旋律を歌で表した口唱歌が有効ですが、これについては機会を改めます)

数字譜は、小学生でもわかる直感的で便利な表記法ですが、練習の間、ずっと譜面を見つめていると、いつまでたっても本番で自信を持って吹くことができず、また、篠笛の音色や表現も向上しません。

今回は、譜面を見ながらのお稽古におけるマイナス点について述べたいと思います。もちろん、運指がわからなくなって、確認するための活用は大丈夫です。

以下、思いつくまま記してみます。
IMGP7182
(1)音色に対しておろそかになる。
試しに音楽CDをかけて部屋を真っ暗にしてみください。音が驚くほどクリアに聞こえるはずです。これは視覚からの情報がなくなり、その分、聴覚が敏感になるからです。玲月流では、視覚情報を減らすことによって、聴覚を敏感にするため、笛を吹く時は「半眼」です(目を完全に閉じてしまうと、目を閉じるという行為に意識が移り、また、重心が不安定になるので半眼とします)。「半眼」の状態で、かつ、どこにも焦点があっていない状態が理想です。見た目にも気になる「まばたき」も「半眼」であればほとんどなくなります。このようにして、極力視覚情報を減らしたいのですが、譜面を用いると、焦点が一点に集中することになり、また、読んで理解するための精神力を費やしてしまいます。譜面を見ながら吹いている時は、音に対する意識がおろそかになっています。

(2)目の前の模範よりも数字譜?
教室でのお稽古の時、前で模範演奏が行なわれているにもかかわらず、ずっと譜面を見つめている人がいます。手の角度や息遣い、指の動かし方などから、沢山のことを学ぶことができます。譜面はいつでも見ることができるので、模範演奏を見ることができる場合は、その観察に集中しましょう。手元に譜面があると、思わず手が伸びるという人は、譜面は鞄の中にしまっておくと良いでしょう。

(3)笛の角度が固定されてしまう。
笛を吹く時は、息の方向と目線の方向が一致することが理想です。そして、顎や笛の理想的な角度は、運指ごとに微妙に異なります。ところが、譜面を見ながらですと、目線の角度が固定され、結果的に笛と唇が必要以上に固定されてしまって、豊かな表現が叶いません。また、正座でのお稽古の場合、数字が読みにくいなどの理由で譜面が膝元にあることが多く、どうしても理想的な顎の角度よりも下を向いてしまいます。笛や顎の角度が固定されると、全体的に単調な表現となってしまいます。

(4)本番では譜面を見られない(見ない)
玲月流では、本番では譜面を用いないので、最終的には暗譜の状態でないといけません。立って吹く場合に譜面台を立てるにしても、座って吹く場合に床に譜面台を据えるにしても、お客さん、あるいは奉納の場合は神仏との間に隔たりができてしまいます。本番を見据えると練習時から譜面を用いない癖をつけておきたいと思います。

以上です。

文字を書くときでも、歌でも舞でも同じかと思いますが、最終的には手本を見ずに自由に振る舞った時に、伸び伸びとした表現が可能となります。好きな曲は、空で歌うことができるはずです。

運指は、指を押さえた状態だけではなく、前の運指からの指の動き、軌道、そして息遣いの変化から、身体が覚えていきます。頭の中で数字に変換してから指を押さえるという作業では、その身体の反応が培われません。譜面を離れてお稽古を重ねると、息遣いの変化や指運びの移り変わりが、次の音を知る手がかりとして働き出します。

まずは一行、譜面をみずに吹いてみましょう。何度かの失敗の後、意外と簡単に暗譜できることに気付くことかと思います。